ES調査(従業員満足度調査)とは?行うメリットや質問例を紹介

ひとつの会社で定年まで勤め上げるのが普通だった時代とは異なり、現代は少子高齢化に伴い、労働人口そのものが減少しています。
どんなにIT化が進み、ロボット産業によって自動化が進んだとしても、最後には人の力が必要になります。
そのような状況の中で企業は、優秀な人材の確保だけでなく人材の流出を防ぎ、長く働いてもらうための労働環境の確立を急務としています。
そのために企業が取り入れるのが、従業員の企業への満足度を知るために行うES調査です。
具体的な内容や取り入れるメリット、費用などについてまとめましたので、参考にして下さい。
目次
ES調査とは?
ES調査とは「Employee Satisfaction」の頭文字をとったもので、従業員満足度調査とも呼ばれ従業員がどれだけ企業に満足しているかを調べるものです。
人は一般に生活や自己実現のために働きますが、自分に合わない労働環境や賃金では長く働くことはできません。
長い社会人生活の中では、多くの人が大なり小なり妥協をしながら、仕事内容に適応し働いています。
しかしこの妥協の度合いが大きくなり、理想とのギャップが埋められなくなると、転職という選択肢を持ち始めます。
もしこのギャップを雇用する企業側が察知し、環境の改善を図ることができれば、人材の流出を食い止めることができるかもしれません。
理想とのギャップには福利厚生や人間関係、賃金や人事評価体制など様々な要因があり、従業員の持つギャップはいわゆる企業の弱みとも捉えられます。
この弱みを少なくすることで、従業員が企業に持つ満足度も上がり、結果的に人材が長く定着することになります。
ES調査で改善できることとは?
ES調査を行う方法ことで、どんなことが改善できるでしょうか。
就職や転職で新しく仕事を探す場合、仕事内容や賃金などの待遇面だけでなく、福利厚生面も重視する人がほとんどです。
しかし福利厚生面は募集要項などだけでは把握できない部分も多く、例えば休暇などの制度は整備していても、実際の取得率は低い場合もあり、運用実態や実績は社外からは知ることが難しい側面があります。
そのため離職率を参考にその会社の働きやすさや福利厚生の充実具合を推し量る人も多いでしょう。
既存社員の定着率が高いということは、待遇や福利厚生、社内の雰囲気など総合的に判断して、長く働ける会社である可能性が高いと判断できます。
人材の募集をする場合、離職率が低く社員の定着率が高い会社には、多くの人材からの募集があるはずで優秀な人材を獲得できるチャンスも当然高くなります。
逆に離職率の高い企業は従業員満足度が低い可能性も高く、結果的に常に人材の募集をする必要があり、採用にかかるコストを無駄に計上することになります。
ES調査は、社員がどれだけその企業に満足しているかを調査するものなので、従業員の満足度を知ることで、逆に不満に思っていることを知ることにもなります。
経営者や管理部門も立場、また社内の人間では気づきにくい意外な不満に気づくきっかけにもなるでしょう。
ES調査を通じて社員が考えていることや不満に感じていることに、寄り添うという企業の姿勢があるだけでも従業員のモチベーション維持になり生産性を高めることにつながります。
ES調査のメリット
従業員満足度や意識についての調査を検討しているなら、ES調査を行うメリットを知っておく必要があります。
いくつかES調査のメリットを紹介しますので参考にして下さい。
社員の企業や組織への満足度を定量的に収集できる
組織は大きければ大きいほど、また従業員が多いほどチームや部署間の連携が重要になります。
例えば営業部門と管理部門とでは当然立場が違うため、同じ業務に対する意識や重要度も異なるはずです。
部門間の相互理解のない組織では、従業員の協力体制が築きにくくなり、特に密に連携する必要のある部署同士では、従業員の鬱積した不満がさらにコミュニケーション不足につながることにもなります。
このような状況では、対面でのオープンなコミュニケーションが不足しているため、従業員の生の声や不満に気づきにくいでしょう。
ES調査は基本的に匿名のアンケート形式で行うため、実際に社員が持っている生の意見や不満、また満足している部分を吸いあげることができます。
対面での意見交換では衝突を恐れて意見できないケースもありますが、アンケートなら意見を出すハードルが下がるため、より建設的で実現可能性の高い意見が出ることもあります。
従業員の適正配置と離職率の低下
組織として会社を運営していくには、様々な業務や部署が必要です。
部署により仕事の仕方も異なり、残業の量や社内の雰囲気も異なるでしょう。
一方、会社で働く従業員にも様々な人がいます。
健康面や家庭環境など、それぞれに抱える事情がある場合もあります。
働き方が多様化し、ワークライフバランスが重視される社会になりつつありますが、全ての企業で実現できているわけではないでしょう。
在宅ワークやフレックスタイム制の導入など制度が整備されていたとしても、業務の性質上、出勤しなければならない部署もありますし、介護や育児など仕事と家庭の両立しなければならない従業員もいるかもしれません。
このような事情に可能な限り寄り添うことで、個々のパフォーマンスを最大限に引き出すことにつながります。
業務への適正も同様で、前職での経験や希望する職種などを考慮し、適正な人事配置に活かすことで、生産性の向上につながるでしょう。
経営戦略の指標になる
従業員の中には、経営者や管理部門の人間には考えつかない、経営者目線の感覚や戦略を持っている人もいるかもしれません。
人事制度や営業戦略などについても鋭い意見を持っていることもありますが、会社に対してそのような見解を意見をする機会はあまりありません。
ES調査を取り入れることで、経営陣には持ちえない感覚や意見を知ることができます。
また実際に従業員の声を反映させることで、ひとりひとりに向き合ってくれる会社であることが従業員にも伝わり、従業員満足度が上がるでしょう。
ES調査を行う方法
ES調査の方法にはアンケートによる調査とインタビュー形式で行う調査があります。
アンケート形式の場合は、従業員全員に基本的には匿名で回答してもらうので、効率よく調査ができる反面、回答の内容についての背景や経緯などの詳細に関する調査には限界があります。
一方インタビュー形式の場合は、従業員ひとりずつに対面で調査を行うので、詳しい経緯や状況なども聞くことができるメリットがあります。
どちらにもメリットやデメリットがありますが、調査の手順を紹介しますので参考にして下さい。
調査の目的を明確にする
ES調査とは従業員が企業に対してどれだけ満足しているかを知るためのものです。
従業員満足度を調査するということは、例えば営業成績の向上や離職率の改善など何かしらの課題解決を目的にしているはずです。
多くの人は仕事へのやりがいや自己実現の見通しがあるかどうかで、また福利厚生や人間関係などを総合して長く働ける環境かどうかを判断します。
従業員の感じているやりがいやモチベーションを調査によって定量化することで、施策や制度を検討する際の材料にもなります。
ES調査にはワークバランスや仕事内容、社内制度などに対する満足度を知る目的があるので、どんな内容を調査したいのかをはっきりさせておくことで、調査結果を施策や制度に活かすことができるでしょう。
調査項目の設定
調査目的が明確になったら、それに合う調査項目を設定します。
この段階では実際に聞く質問内容ではなく、いわば大項目を設定していきます。
人間関係や仕事への満足度合、仕事の難易度やボリューム、賃金について、上司のマネジメント力など項目は様々です。
若年層の従業員への調査では、近い将来だけでなく長期的なキャリアプランに対する満足度や家族構成、家庭事情等を踏まえた上で、それぞれが抱える不安要素を聞き出す項目を設定するうち、仕事へのモチベーション維持になり従業員の満足度や納得感につながるでしょう。
設問作り
調査項目に沿って、実際従業員に調査する設問を作成します。
重要なのは設問数を誰が読んでも理解しやすい文章にすることです。
基本的には業務時間内に調査に回答するため、見た目のボリュームや設問数に圧倒されて回答意欲を削ぐことのないよう、全体の回答時間は10分以内に収まるようにすることをおすすめします。
一度に多くの情報を収集しようとせず、複数回に渡って調査を行い安定的な回答が収集できるようにします。
また設問文を作成する際には誰が読んでも、一定の解釈になるように十分注意します。
回答形式を決める
回答方法は選択肢の中からひとつ、または複数を選んでもらう選択回答形式の他、自由に回答してもらう自由記述式などがありますが、自由記述の場合は心理的な抵抗感を感じる人も多いため、選択回答式の方が一般的です。
回答結果の集計
いずれの解答形式の場合も、回収したアンケートの数が多いほど集計には手間も時間もかかります。
従業員が多い場合などは、人材サービスなどを提供する外部企業などに委託することもできます。
作業量やコストなどを検討して決めると良いでしょう。
ES調査の質問例
実際にES調査を行う際の質問例を紹介しますので、参考にしてください。
基本情報
ES調査は原則匿名で行われますので、従業員の属性や年齢、性別、所属部署などの基本情報を回答してもらいます。
勤続年数や役職なども必要に応じて加えます。
仕事への満足度
多くの人は仕事を通じて自己実現や成長をしたいと考えています。
自分の役職や職責から見て、妥当な仕事内容、ボリュームかどうか、また仕事を通じて知識や能力を高めてきたか、会社への愛着心や将来に向けての仕事のイメージなど、仕事の質と量についての満足度を問う質問です。
質問例
・仕事内容や量が自分に合っている
・スキルを身につけられる仕事である
・将来のビジョンやキャリアプランにマッチした仕事である
・仕事上の達成すべき目標がある
人間関係に関する満足度
仕事をする上では同僚や上司、関連部署との円滑なコミュニケーションは必須です。
コミュニケーションが良好で風通しのよい環境では団結力が生まれ、課題発見力にも優れている可能性が高いため生産性の高い環境になります。
質問文は上司との関係などデリケートな部分に触れる内容になるため、文章には配慮が求められます。
▼質問例
- 所属部署や他部署にたいしても意見の言いやすい環境である
- 悩みを相談しやすい上司である
- 上司からの仕事の指示は的確である
- 上司とのコミュニケーションの内容や量は適切である
企業風土への満足度
仕事や賃金に満足していても、会社への信頼が低い場合や会社の方針や指示に不信感を感じている場合などは、従業員同士で会社への不満が伝播する可能性もあるため、会社員が企業風土についてどう感じているかを調査することも、とても重要です。
▼質問例
- 会社は社員を信頼していると感じる
- トラブルの際は会社や周囲がサポートしてくれると感じる
- 意見やアイディアを言いやすい雰囲気である
- 社員を信頼して仕事を任せてくれると感じる
人事制度に関する項目
働く上で従業員にとって、賃金や待遇は重要な項目です。
賃金や待遇に満足かどうかだけでなく、評価基準や目標管理制度などについても質問と併せるようにしましょう。
▼質問例
- 現在の部署に満足している
- 家庭事情やキャリアプランに応じた部署の希望を考慮してくれると思う
- 昇進や人事評価制度は適切である
業務量や負荷に関する項目
仕事量や残業などについて総合的に質問する項目です。
▼質問例
- 与えられた仕事量は適切である
- 残業時間や勤務時間は適切かどうか
ES調査は依頼する方が良いのか
従業員が企業に持っている意識や満足度合を知るために行うES調査を、自社で行うか外部に依頼する方が良いのかを解説します。
自社で行う一番のメリットは費用面です。
調査規模の大小にかかわらず、調査会社に依頼すれば当然費用がかかりますが、自社で行う場合は大きく費用を抑えることができます。
従業員満足度調査を行うのに必要なテンプレートがあれば、項目や設問の設定もできるので、自社で行うのもひとつの方法でしょう。
しかし自社で行う場合のデメリットも理解しておく必要があります。
ES調査の目的は会社の抱える課題の洗い出しなので、従業員が会社をどう思っているかを知った上で、施策や制度改定などの根拠や検討材料につなげる必要があります。
調査そのものが目的にならないよう、課題が明らかになったらその課題の因子をある程度予測した上で仮設を立て、設問を設定しなければなりません。
自社で調査のすべてを行う場合、この仮説の検証と設問の設定が難しい場合があります。
インターネットで入手した設問のテンプレートは、様々な課題を持つ企業向けに作成された汎用性のある内容です。
一定の課題に対して焦点が絞り込めていない可能性もあり、広く浅い調査になりがちで、結果的に課題を解決できるほどのアクションや人事施策を見出すのは困難な調査になってしまいます。
次に自社で調査を行う場合、アンケート内容を見るのは社内の人間であり、それは上司である可能性もあります。
率直な意見を回答することへの抵抗感もあるでしょう。
ES調査は複数回、また定期的に行うことで効果が期待できます。
初回の調査後、回答者の割り出しや紐づけが無いことがわかれば、2回目以降の調査でも率直な意見を収集しやすくなります。
これらのメリット、デメリットを総合的に勘案すると、調査会社に依頼することでより課題をスポットで割り出せる効果的な調査結果を得られる可能性が高いと言えます。
ES調査を依頼する際の費用目安
ES調査は一度きりではなく複数回、また定期的に実施することで課題が浮き彫りになり、具体的なアクションへつなげることができます。
また定期的に従業員満足度を調査することで、会社から大切にしてもらえていると感じることができます。
精度の高い調査を行うには相応のノウハウが必要です。
ES調査が初めての場合や、自社に実施するノウハウがない場合には外部の調査会社に依頼することで、効果的な調査ができます。
費用も重要な検討材料です。
費用の目安を紹介しますので参考にして下さい。
まずすべてを外部に委託するのではなく、アンケートツールを利用して自社で調査を行う方法です。
アンケートツールの利用料金は月額2万円程度から15万円程度と幅があります。
費用は調査の対象人数や設問数などによって変わり、中には無料で利用できるサービスもありますが、実施できる回数の制限がある場合がほとんどです。
次にリサーチ会社や人材サービスを提供する会社に依頼する場合です。
この場合は調査ごとに内容や規模に応じて料金が設定されていることが多く、約15万円から40万円程度が相場です。
調査内容の設計、実施、結果集計以外にも結果を分析した上でのコンサルティングや、社員でのフォローアップまで依頼できる調査会社もあります。
より高精度の調査を行いたい場合や実施ノウハウが無い場合には、大きな助けになるはずです。
基本的に対象者や質問数が増えるほど高額になることが多く、またクロス集計や構造分析など結果の集計方法がより複雑かつ高度になると、費用も高額になります。
ES調査の依頼でおすすめの調査会社
ES調査を依頼できる会社をいくつか紹介します。
費用面だけでなく、どんな調査ができるのか、また分析力や課題解決への提案サポートの有無も検討して依頼するのがおすすめです。
ショッパーズアイ
覆面調査会社の大手としても知られるショッパーズアイは、クロスマーケティングが提供するサービスで、調査力の高さに定評があり、ES調査でも多くの企業からの導入実績があります。
構造分析を得意とし、要素別満足度の相関関係をもとに具体的な改善提案まで行います。
マインドシェア株式会社
様々な分野でマーケティングサービスを提供するマーケティングソリューション会社です。
調査依頼時には課題を抱える企業と詳細なヒアリングを行った上で、仮説をもとに戦略のプランニングを行います。
30年もの長い間で培ったマーケティングノウハウで、エビデンスをもとに隠れた技術や優れた製品を市場に生み出すマーケティングパートナーとしても、多くの企業から選ばれています。
カオナビ
人事情報や評価管理などの運用サポートのほか、ES調査、離職やモチベーション分析を手がける会社です。
従業員のモチベーションやコンディションを調査し、不満や満足しいる内容を可視化することで、従業員のパフォーマンスと原因との相関関係を分析してくれます。
ES調査以外にも包括的な人事サービスを提供しているため、調査後のフォローを依頼したい場合にもおすすめです。
まとめ
私たちは生活やお金のためだけでなく、自己実現のために働きます。
いくら待遇が良くても、将来の人生設計を実現できないと感じれば、仕事はただのお金を稼ぐ手段になってしまいます。
そのため従業員が自分の働く会社を見る目はとてもシビアで、人生の大部分の時間を、この会社で過ごせるかどうかをきちんと見ています。
もし離職率や新規開拓への頭打ちなど、これまでと同じ方法では結果が出なくなったと感じたら、従業員の満足度調査をしてみるのもおすすめです。
従業員が不満に感じていることとの相関関係を見出すことができれば、課題解決の突破口になります。
ここで紹介した内容を参考に検討してみてはいかがでしょうか。